週刊エコノミストに寄稿いたしました

週刊エコノミスト(2024年1月23日・30日合併号)に”円安で国税が狙う為替差益の申告漏れ コロナ禍で海外資産情報の扱いに習熟”を寄稿いたしました。

海外資産や為替差益の税務調査動向についてまとめていますので、是非ご覧ください。

公式サイト:週刊エコノミスト 2024年1月23日・30日合併号

令和5年度の海外資産の税務調査

公認会計士の高鳥拓也でございます。
7月から税務署の新事務年度となって、今年度の税務調査が始まっています。
令和5年度の海外資産に対する税務調査の動向について、コメントさせていただきます。

 

1.CRS情報に基づく調査対象者選定

海外資産の税務調査の対象者の選定において、CRS(Common Reporting Standard:共通報告基準)情報交換により海外の税務当局から提供された海外金融口座情報が積極活用されています。
CRS情報交換は2018年9月から始まり、毎年実施されていますので、税務署には5年間の情報の蓄積があります。単純な申告漏れは当然として、資産残高推移が適切に国外財産調書に反映されていない場合は、税務調査の対象となる可能性がありますのでご注意ください。

また、海外プライベートバンク、海外資産管理会社、海外信託(Trust)を保有されている場合、海外資産額が大きいケースが大半のため、税務署は関心を持っており、税務調査の対象となる可能性が高いと捉えていただくのがよいかと思います。
これらスキーム事案の日本の税務上の取扱いは、事案毎に、準拠した外国法やTrust Deedなどから法的性質を特定し、日本の税制に照らして判断することになりますので、実務的な判断が難しい局面が多くあります。
税務調査にて、スキーム設計時に意図した法的性質・効果を考慮しない指摘を受けた場合は、的確に反論を行う必要がありますので、その際はご相談いただければと思います。

2.為替差益に対する課税

昨年からの急激な円安基調において、海外口座にあった外貨を円転して日本に送金された方が多くいらっしゃいます。円転により為替差益が発生している場合は、雑所得として申告する必要がありますが、その必要性を認識していない等の理由で、申告漏れの状態にある方も多いかと思います。
税務署は、海外から日本への100万円超の送金を、着金元銀行から提供される「国外送金等調書」によって全てチェックしています。そして、為替差益の申告漏れがあると判断した方に対して税務調査を実施しています。
2022年中に、まとまった外貨を円転して日本に送金された方は、為替差益の申告要否を確認して、申告漏れとなっている場合は税務調査となる前に自主的に申告することをおすすめいたします。

なお、非居住者期間に獲得した外貨を、日本帰国後に円転して日本に送金した場合、外貨スタート(片道)のため、為替差損益を認識する必要はないのでは とのご質問を受けることが多いですが、税法上は、円転時に日本居住者である以上、外貨取得時と円転時の為替差損益を認識する必要がありますので、ご注意ください。

また、海外口座にある外貨で海外の金融商品や不動産を購入した場合も、購入時点で為替差損益が実現したものとされますので、為替差益が発生しているときは、雑所得として申告が必要です。併せてご注意ください。
これら海外(外→外)での取引は、上記の蓄積したCRS情報に基づく資産残高推移、不動産登記情報、(海外税務当局から提供される)非居住者支払調書などから把握されることになります。

為替差益の計算は、実務上、外貨の取得時のレート計算が困難となることが多いので(円転した外貨をいつ取得したのか分からない!)、その対応方法などについてはご相談いただければと思います。

3.お尋ねの送付

税務署は入手した情報に基づいて、「国外送金等のお尋ね」や「国外財産調書の提出義務の確認について」の文書を送付しています。本文書にて申告漏れを認識された方は、回答と併せて修正申告等の対応をされることをおすすめします。
本文書は、税務調査ではなく行政指導の位置づけですので、この段階で申告されれば自主申告として加算税等は減免されることになります。

弊所は、海外資産の税務調査の連絡があった方、「国外送金等のお尋ね」や「国外財産調書の提出義務の確認について」の文書が届いた方に対して、ご支援が可能ですので、お困りごとがありましたらご連絡いただければと思います。

当コラムは2023年7月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

税務相談は1時間3万円(消費税込)で承っております。
税理士には守秘義務がありますので、ご相談いただいた内容が税務署など第三者に知られることはありません。どうぞご安心ください。

 

  • ・お電話でのお問合せは、03-6369-8180までご連絡ください。平日(月-金)9時-18時で対応しております。
  • ・メールでのお問合せは、こちら(メールフォーム)からお問い合わせください。翌3営業日以内を目安に返信させて頂きます。

海外信託の税金対応

7月から税務署の新事務年度が始まり、すでに税務調査開始の連絡を受けた方もいらっしゃるかと思います。海外資産に関する税務調査については、これまでどおり、CRS(共通報告基準)に基づく情報が調査対象者の選定において重要な役割を果たすことになると考えます。
海外所得を申告されていない方、特に、申告漏れの金額が大きい方は、税務調査となる前に自主的に申告されることをおすすめします。

また、海外のプライベートバンク、資産管理会社、信託を利用されている方に対する税務調査も増加しています。

海外のプライベートバンクの税金対応はこちら、海外の資産管理会社の税金対応はこちらをご参考にしてください。

 

海外信託

海外信託の典型的なケースとしては、下記の裁量信託(Discretionary Trust)があります。

裁量信託(Discretionary Trust)とは、受託者(Trustee)の信託財産の管理処分に一定の裁量を認める信託の形態です。
信託財産の内容や税制・法令の変更に応じた資産運用が可能となるため、海外で一般的に採用されています。

<裁量信託(Discretionary Trust)>

裁量信託(Discretionary Trust)

Custodian Bankの口座情報は、CRSに基づく情報交換により、この口座の実質的所有者(beneficiary owner)の居住国である日本に提供されますので、これが税務調査のトリガーとなることがあります。

税務調査での調査官の着眼点としては、

  • 信託財産の運用益や信託からの分配を適切に申告しているか?
  • 信託財産を国外財産調書で開示しているか?
  • 信託設定が子供への贈与に当たるのではないか?

などが想定されます。

特に贈与の論点については、適用される贈与税の税率が高いため、海外信託の法的性質・効果を考慮しない指摘を受けた場合は、的確に反論を行う必要があります。

裁量信託では子を受益者に設定するものの、子は信託期間中(親の生存中)は信託財産の分配請求権など一切の実質的な権利を有さず、信託契約終了(親の相続発生など)をもって始めて信託財産の権利を受け取るという前提で設計することが多いです。この前提であれば、贈与税(相続税)の課税のタイミングは信託設定時ではなく、信託契約終了時となります。

海外信託の日本の税務上の取扱いは、現状の日本の信託税制が海外の信託の仕組みを想定した内容になっていないため、実務的な判断が難しい局面が多くあります。
実務上は、事案毎に、準拠した外国法やTrust Deedなどから海外信託の法的性質を特定し、日本の信託税制に照らして判断することになります。

 

弊所のご支援

弊所は海外信託に対する税務調査の対応経験が豊富にありますので、ご支援が必要な方はご連絡いただければと思います。

また、弊所は事業承継に関わる国際税務のご支援もしていますので、何かお困りのことがあれば、ご相談ください。

 

当コラムは2023年7月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

税務相談は1時間3万円(消費税込)で承っております。
税理士には守秘義務がありますので、ご相談いただいた内容が税務署など第三者に知られることはありません。どうぞご安心ください。

 

  • ・お電話でのお問合せは、03-6369-8180までご連絡ください。平日(月-金)9時-18時で対応しております。
  • ・メールでのお問合せは、こちら(メールフォーム)からお問い合わせください。翌3営業日以内を目安に返信させて頂きます。

海外の資産管理会社の税金対応

海外資産の保有・運用形態として、従前は、オフショア地域(BVI:英領ヴァージン諸島、ガーンジー島、セ-シェルなど)に資産管理会社を設立または購入して、同法人名義でPrivate bankの口座を開設、同口座に個人資産を移管して運用が主流でした。今でもこの形態で海外資産を管理されている方が多くいらっしゃると思います。

例:日本居住者(個人)がBVI法人を設立し、シンガポールのPrivate bankでBVI法人口座を開設して資産運用する場合

<スキーム図>

このスキームは当時の現地銀行担当者、弁護士、会計士などのアドバイスで設計されたものと思いますが、現在の税制や国際課税の各国協調体制の状況に沿わない可能性が高く、見直しや影響緩和策の検討が必要になるものと考えます。

 

海外の資産管理会社の課題

①海外資産情報の透明化の流れ

2018年9月から始まったCRS(共通報告基準)に基づく情報交換により、オフショア地域の資産管理会社(ペーパーカンパニー)の口座情報は、株主(Beneficiary Owner)の居住国である日本に提供されており、税務調査の対象者の選定において積極的に活用されています。会社名義の口座で日本に送金していないので、税務署に把捉されないだろうという考えは通用しません。

②不利な税制

日本居住者が支配するオフショア地域の資産管理会社(ペーパーカンパニー)で発生した金融所得(利子・配当・キャピタルゲイン)には、タックス・ヘイヴン税制(外国子会社合算課税)が適用され、個人所得とみなされて雑所得課税が適用されます。課税は累進課税で、最高税率は所得税+住民税 55%です。

個人名義の金融所得の課税は分離課税で、税率は所得税+住民税 一律20.315%ですので、金融所得額が大きいほど不利になります。

③相続発生時の負担

資産管理会社の株主に相続が発生した場合、相続人は資産管理会社の所在国、会社口座の所在国、そして日本の法制を確認して、相続手続を進める必要があります。また、オフショア地域の資産管理会社の利用は「スキーム事案」として税務調査の重点項目となっています。そのため、残されたご家族に相続手続や税務調査対応の多大な負担を強いてしまうおそれがあります。

なお、相続税は、資産管理会社への出資金及び貸付金を評価して、他の相続財産に加算し、相続税率を乗じて計算することなります。

④法人維持コストの負担

毎年、法人登録更新費、Service ProviderへのAdministration feeなど法人維持コストの負担が必要です。

 

今後の対応

①開示と修正申告【最優先】

海外の資産管理会社名義の資産の開示や発生所得の申告を行っていない場合は、税務調査で指摘される前に自主的な申告開示を行うことをおすすめします。

国外財産調書(資産の開示)

2013年(平成25年)以降の各年末の国外財産残高が5,000万円超の場合、その年分毎に国外財産の内容や評価額を開示する必要があります。

修正申告/期限後申告(発生所得の申告)

原則として、直近5年間が申告対象です。海外資産管理会社の利益額を決算日から2ヶ月後の為替で円換算して雑所得として申告します。オフショア地域は納税義務がないため現地で決算を行っていないことが多く、弊所ではBank statementのTransaction historyに基づきCalendar yearで決算を組んで損益計算書及び貸借対照表を作成して課税所得を計算しています。

例:2022年1月~2022年12月のTransaction history(Bank statementより)

  • 収入:利子、配当、キャピタルゲイン
  • 費用:法人登録更新費、Administration fee、借入金利息 など
  • 外貨建の利益(収入-費用)を2023年2月28日の為替で円換算して、2023年(令和5年)分の雑所得として申告

②スキーム解消の検討・実行

上記のとおり、海外の資産管理会社を利用することは税制等の観点から、不利な可能性が高く、税務当局に全て申告開示されるのであれば、併せてスキーム解消の検討を進めることをおすすめします。

スキーム解消に際して、通常、資産管理会社名義の口座から個人口座へ資産を移管しますが、この移管時の課税について注意が必要です。

移管額のうち資産管理会社への出資金と貸付金の合計額を超える部分は留保利益の分配となります。そのため、設立以降の決算を組んで、移管時点の出資金額と貸付金額を明確にすることが必要です。

また、留保利益の分配について、「当年度+過去3年度に雑所得として課税済の金額」までは課税されませんが、過去4年度以前の留保利益は配当課税の対象となりますので、ご留意ください。

なお、個人口座へ移管後、日本に送金せず、引き続き海外で管理運用される場合は、Private bank等が提供するTrust serviceを利用されてもよろしいかと思います。

 

弊所のご支援

弊所では海外の資産管理会社の日本申告用の決算業務、税申告開示(確定申告、国外財産調書、財産債務調書)、税務調査対応の支援を行っております。また、海外のAgentと連携して、海外の資産管理会社の清算手続、海外銀行口座の閉鎖手続など現地側のご支援にも対応しております。ご支援が必要な方は弊所までご連絡いただければと思います。

また、弊所は事業承継に関わる国際税務のご支援もしていますので、何かお困りのことがあれば、ご相談ください。

 

当コラムは2023年4月現在の税制に基づいて作成しており、読者の皆様のご理解を深めるために内容を簡素化している場合がございます。また、具体的な状況によって課税関係が変わる可能性がありますので、記載情報に基づいて行動される前に、弊所までご相談して頂ければと思います。

税務相談は1時間3万円(消費税込)で承っております。
税理士には守秘義務がありますので、ご相談いただいた内容が税務署など第三者に知られることはありません。どうぞご安心ください。

 

  • ・お電話でのお問合せは、03-6369-8180までご連絡ください。平日(月-金)9時-18時で対応しております。
  • ・メールでのお問合せは、こちら(メールフォーム)からお問い合わせください。翌3営業日以内を目安に返信させて頂きます。

週刊エコノミストに寄稿いたしました

週刊エコノミスト(2021年12月14号)に”海外資産 86カ国・地域との情報交換が端緒 「未申告の資産」が標的になる”を寄稿いたしました。

海外資産の税務調査動向や今後の見通しについてまとめていますので、是非ご覧ください。

公式サイト:週刊エコノミスト 12月14日号

週刊エコノミストに寄稿いたしました

週刊エコノミスト(2020年12月15号)に”海外財産を狙い撃ち 「100万㌦以下」も対象に 情報交換で申告漏れを捕捉”を寄稿いたしました。

コロナ禍における海外資産の税務調査動向や今後の見通しについてまとめていますので、是非ご覧ください。